不法残留や在留資格未取得等、違法状態にある外国人が何らかの事情により、合法に日本で在留が出来るように特別に認めて欲しいと在留を希望する場合の手続が入管法の改正に拠り、2024年6月10日より手続運用が変わり「在留特別許可申請手続」が創設されました。

在留特別許可申請手続とは

不法入国、不法残留、在留資格未取得等の退去強制事由に該当する違法状態にある外国人において、何らかの特別な事情により、日本での合法な在留を希望する場合に、これまでは、自ら違反を申告して、退去強制手続を受ける中で、入管法第50条に基づき、同手続の過程において「退去強制されることなく、合法的に在留することが出来るための許可(在留特別許可)」を法務大臣に求めることが出来るというものでありましたので「申請」という法定手続ではありませんでした。

従って、在留特別許可が認められなかった不許可事案については、これまでは不許可とした処分理由は一切、告知されないものでありましたので、審査基準が不透明で許可されるか否かの予見性を持つことが困難な一面があるということと、難民認定申請の濫用、誤用による在留特別許可を希望する事案も数多く生じている実情にありました。そのようなことからも本改正によって、在留特別許可の審査において、法務大臣が具体的に考慮する事情がどのようなものであるかが明示されましたので、申請を希望する者において、許可になるか否かの予見性を相当程度、持つことが出来るようになりました。また、在留特別許可と難民認定手続を分離することとし、更に在留特別許可を希望する場合は「申請」の手続方式となりましたので、自ら違反を申告して、退去強制手続を受ける中で、在留特別許可を希望する者は在留特別許可申請を行う必要があり、仮に申請の結果、不許可処分に付された場合は、不許可理由が申請人に告知されることとなりました。

在留特別許可と審査態様

2024年6月10日以降でも手続運用が申請手続に変わったというだけで、それ以外の実際の審査の有り方については従来と何ら変わるものではありません。実際のところ、日本での在留を希望したとしても、93パーセント以上の者は必然的に強制送還されますが、数パーセントの者は、その者が具備している事情を特別に考慮され、法務大臣から在留特別許可が付与されております。同許可が付与された場合は、正規在留している中長期在留者と同様、地方入管局長から「在留カード」が交付され、合法的に在留することが可能となります。

在留特別許可は、法務大臣の裁量によって極めて限定的、かつ、慎重に決定される許可ですから、要件等についての疎明・立証資料は入念、かつ、丁寧に収集、整備し、申告書等の立案、作成に当たっては事実関係を基にして同許可を得るに当たって相当である、との視点から構成することとなります。

同手続は、入国警備官による違反調査業務に始まり、入国審査官による違反審査業務、特別審理官による口頭審理(違反審判)の各業務を経由して最終的には法務大臣による裁決処分に至るという膨大なものであります。事案内容の軽重を問わず、重厚な手続が執られておりますので、そのことを充分に理解された上で同手続を行う必要があります。
中には、疎明、立証が不十分であったり、同手続きの重厚な審査が執られることを理解されずにご自分で同手続を行って、数年経過しても入管局から連絡がなく、困惑して当所に相談に来られる方もおりますがおおよそ、それらの方は、在留特別許可を付与しないとされてしまった案件となります。これらの案件の中には、最初から当所にご相談していただければ充分に在留特別許可が取得できたであろうと思われる案件もあり遺憾というほかありません。

他方、違反申告を受けた入管は、当人らから事情を詳細に聴取し、提出資料も確認して一定の事情があると思料される案件は、申請を受理して当人らに受付票が発行されます。その場合は、原則、収容されることなく、在宅案件として取扱われ、当人らは日常生活を送りながら、自宅で審査結果を待つこととなります。
但し、審査結果を待つ間も、当人らは違反状態が何ら解消されているわけではありませんので注意が必要です。
一方、法務大臣による在留特別許可の許否の判断に当たっては、個々の事案ごとに、在留を希望する理由、家族状況、素行、内外の諸情勢、人道的な配慮の必要性、更には日本における不法滞在者に与える影響等、諸般の事情を総合的に勘案して行うこととしており、その際,積極的な要素と消極的な要素が考慮されます。

申請可能な期間

申請が可能となるのは、本国へ帰国させるための退去強制令書が発付されていない外国人が対象となりますので、既に退去強制令書が発付されている場合は、在留特別許可申請を行うことは出来ません。

申請方法

申請を希望する外国人が居住する最寄りの地方出入国在留管理局(支局、出張所は除く)へ往訪し、申請書と疎明・立証資料を完備して、外国人本人が出頭し、違反申告を行って、違反調査を受けて、退去強制手続が進められ、その中で在留特別許可申請を希望するか、帰国するかを問われることとなりますので、申請を希望する場合は、申請書等を提出することとなります。

不許可処分に付された場合

在留特別許可申請手続を行わないで速やかに帰国した場合と、在留特別許可申請を行って不許可処分に付されてから帰国した場合とでは、その後、日本に入国できない期間(上陸拒否期間という。)が異なることがあります。また、当然のことながら、在留特別許可が認められなかった場合は、速やかに帰国させるための退去強制令書が発付され、強制送還を可能とするための退去強制手続が執行されていくものとなります。

再申請について

在留特別許可が認められなかった不許可事案について、再申請を行うことは出来ません。

留意する点

申請の手続方式になったからと言って、退去強制手続が行われていることに変わりはありませんので、生活上の注意点、不許可処分に付された場合の不利益(リスク)等も鑑み、申請を希望される際には、入管法令に通暁した専門家に相談され、許可となる可能性を吟味し、充分な申請理由書、疎明・立証資料を速やかに収集、完備していくことが肝要です。

当所では、これまで数多くの在留特別許可案件を取扱っていますが、例えば、出入国在留管理庁が策定した在留特別許可に係るガイドラインにも列挙されている許可事例の中に多くある日本人との婚姻をして婚姻生活を送っているという事例がありますが、外国人においても、行政書士等の士業者であっても、実際の地方出入国在留管理局の審査態様の有り方を充分に承知、理解していないことから、単に日本人との実態の伴う婚姻をして真摯な婚姻生活を送っており、不法残留以外に犯罪歴もないことから在留特別許可を得られるだろうと考え、在留特別許可を求めたが、長い審査時間がかかった結果、在留特別許可が認められなかったとして、失意の中、当所に相談に越される方もあります。

当然の事ながら、出入国在留管理局において、厳密仔細に審査を行いますので、実際に日本人との実態の伴う婚姻をして真摯な婚姻生活を送っていても許可にならない案件もあります。

再審情願

当所において扱った事例の一つは、何らかの事由で不法残留(オーバーステイ)した外国人が、日本での在留を特別に認めて欲しいと念願する事案でした。同人は、入管局へ自主的に出頭の上、自らの法違反を申告しようと決意し、そのための資料収集、記録作成等諸々の手続、準備に勤しんでおりました。ところが、ある日、コンビニエンス・ストアへ買い物に出掛けたところ、偶々同店にいた警察官から職務質問を受けることになり、その結果、不法残留者であることが発覚することになりました。その場で逮捕された上、警察署に身柄を勾留された後、入管の収容施設に移送されました。こうした案件は、決して珍しくありませんが、自主的に出頭した案件と較べて身柄を逮捕・収捕された案件は、情状面において大きな差異が生じている実情にあり、本件も最終的には退去強制令書が発布されて仕舞いました。
退去強制令書が発付された後は、強制送還可能となるのを待つだけとなりますが、これらの事案を救済する方途として「再審情願書」を提出し、在留特別許可を得るという方途がありますが「再審情願」は、入管法には何ら規定がないものでありますので、「再審情願」によって在留特別許可を認められる確率は、千分の一、二千分の一と言われるほど至難のことですが、挑戦する価値がある場合があります。「再審情願」に精通している行政書士等の専門家は極めて少ない実情にありますのでご留意ください。