1.入国事前審査
外国人が本邦に入国、在留しようとする場合、その者が日本において行おうとする活動は、入管法で定められた合計29種類に及ぶ「在留資格」に定められたものでなければなりません。現行入管法上、在留資格「短期滞在」を除くその余の在留資格については、当該外国人が本邦に上陸しようとする前に本邦において行おうとする活動に係る上陸のための条件に適合しているか否かを認定して貰える制度があります。これを「入国事前審査制度」と言います。
この「入国事前審査制度」は、入国審査手続の簡易・迅速化を図ることを目的として制定されたものであり、入国・在留しようとする外国人本人は勿論のこと、入管法第61条の9の3に定められた当該外国人の法定代理人(配偶者、子、父又母等)及び法務省令の要件を満たす行政書士・弁護士は、当該外国人に代わって「在留資格認定証明書交付申請」を行うことが出来ると定めております。同申請を行う者は、当該外国人が住居地を定めることとしている地方出入国在留管理局(以下、「入管局」と言う。)宛てに在留資格認定証明書交付申請書及び疎明資料を提出してその可否を仰ぎます。
一方、同申請を受理した入管局においては、当該外国人の本法において行おうとする活動が入管法に定める身分若しくは地位を有する者としての活動のいずれに該当するのか、またその地位・活動に適合しているか (これを「在留資格該当性」と言う。) 否かを含め、上陸のための条件への適合性、その度合い等について詳細に審査し、各案件を事案内容・資料の整備状況別にA?Dのランクに分類して対応、措置しております。
審査に当たっては、申請内容及び提出された疎明・立証資料に係る信憑性の認否、過去において処分した先例との比較衡量、在留資格該当性の有無、基準省令に定める基準への適合性、上陸拒否事由該当の有無及び過去における在留歴・退去強制歴等を総合的、客観的に検討し、その認否を行います。その結果、これらの諸条件・要件に適合している場合は在留資格認定証明書が交付され、同基準・要件に適合していない案件及び疎明・立証資料が不足している案件については不交付処分に付されるということになります。
当然のことながら、各案件の処理に要する日数は、事案毎に異なりますが、凡そ1~3ヶ月内に処分結果の通知が行われます。これより、申請者は、念には念を入れて疎明・立証資料を取得、整備するとともに、申請内容が各基準・要件に適合していることを明らかにすることが必要です。もちろん、偽装婚や偽装日系人、さらには偽装の事業経営等は「実態調査」によって裏付けが成されることとなっています。
因みに、審査の過程において疎明・立証資料が不足している場合は、必ず「資料提出通知書」によって追完・補完することを求められますので、入管局が指示した提出期限までにこれを追完しなければなりません。これを怠ると、不交付処分に付されることとなります。
2.在留資格審査
在留資格認定証明書を交付され、これを基に適正査証を取得して本邦に上陸した者は、当該在留資格の許容する範囲内で在留活動を営むことが出来ます。いわゆる本邦において中・長期間在留する者で、その多くはその後在留期間更新許可申請、在留資格変更許可申請、永住許可申請等、何らかの審査(これを「在留資格審査」と言う。)を受けることとなります。
それらは、多岐に亘っておりますが、そのいずれも在留実態に即した審査が行われます。
もちろん、これらの在留資格審査においても「在留資格該当性」、「永住許可基準の適合性」等々、全ての案件について定められている基準・要件の適合性が問われます。申請者側から提出された疎明・立証資料のみに頼っていては公正にして客観的な処分は望み得ないため、入管局は案件毎に、随時に当該外国人の在留状況等について実態調査を行い、在留実態を把握することに努めております。取り分け、不利益処分(不許可処分・不交付処分)を行うときは、申請者側から行政訴訟(行政処分の取消・無効確認等)が提起されることを視野に入れながら、実態の究明に力を注いでいる実情にあります。
3.法務大臣の裁量権と入管局における処分基準
こうして処分された案件は、そのいずれもが「行政先例」となり、積み重ねられて行きます。
したがって、 先例案件と同種・同様の案件については、容易に処分することが可能であり、仮にこれに当てはまらない案件であるとしても、先例と比較衡量しつつ、大所高所の観点から「裁量」によって処分が成されます。
これより、疎明・立証資料が揃ってさえいれば必ず許可処分に付されるということにはなりません。
これまでの判例、行政先例を基に考察しますと、各案件は、当該外国人の在留状況、身分関係、家族事情、在留許可を求める理由の当否のみならず、国内の政治・経済・社会等の諸事情、国際情勢、外交関係、国際礼譲など諸般の事情を総合的に勘案して、その者にかかる諸事情等が在留を許可する要件を備えているときは、これを許可することができるという広範な裁量権に基づいて許否されているのが実情です。
案件によっては、入管局による実態調査の結果、立証・疎明資料の不足分が充足されたとして許可処分に付された案件も存在します。ことほど左様に、 入管法における広範な「裁量権」に委ねられていることは注視すべきでしょう。仮に、この「裁量権」を恣意的に用いれば、当然のように職権の逸脱・濫用となり、由々しき事態を招来することとなるので、入管局においては組織ぐるみでこの点の防止に努めているものと思われます。
ところが、処理された事案の中には職権の逸脱・濫用を疑わせる案件も散見されますし、一方的に申請人側の落ち度と思しき案件もあります。
つい先日もご自分で申請され、簡単に不許可処分に付されたとして困惑しながら相談に見えられた方がおられました。聞けば、殆ど疎明・立証資料を揃えないまま申請したとのことで、入管局による追完指示に対しても怠慢であったとのことです。これらの案件は、事前に当所にご相談して頂ければ、容易に許可処分に付されたであろうと思われる案件であっただけに遺憾と言うほかはありませんでした。いずれの申請であっても、 申請を行うに当たっては、・疎明・立証資料は完備したか。・法令及び告示等に定める基準・要件は具備しているか。・在留実態と疎明資料間に齟齬はないか。・法令違反・納税義務懈怠等はないか。等々を厳密、仔細に検分、検討した上で申請書を提出すべきところ、これらのいずれかが欠ければ不利益処分に付されても致し方ないと思われます。
仮に、不利益処分に付された場合には、査証発給申請や帰化申請とは異なり、申請者は、入管局に対して同処分理由の開示を求めることが出来るようになっております。如何なる理由によって不利益処分に付されたのかを知ることは、前処分を回復させる上で必要不可欠です。その理由を質す中で、仮に入管局による過失、過誤が判明すれば、行政訴訟の提起又は行政処分に対する不服の申立を行うこともありますし、これを踏まえての再申請も考えられます。
他方、前処分における不許可・不交付理由を補完・追完して再申請に及んだとしても、他の理由で不利益処分に付される事例も多く見受けられます。それでは、これらを防ぐにはどのような方策・対策が考えられるでしょうか。
その答えは唯一つ、「入管法令、関連する諸法令、判例、行政先例を研鑽し、これらに通暁すること」だと思います。
当所においては、前述した業務姿勢を堅持しながら、日々研鑽に励んでおります。お困りになられた際は、ご遠慮なくご相談され、信頼できるプロのサポートを受けられることをお勧めする次第です。